スポーツ栄養学
陸上
競技特性
・基本的な人間の運動を競う
・種目が多彩
一定のルールに従い、歩く、走る、跳ぶ、投げるといった動きを競う種目で、オリンピック最古の競技は短距離走だったと言われています。
「短距離走」「中距離走」「長距離走」「ハードル走」「跳躍競技」「投てき競技」など複数の種目を行う「混成競技」等、その種類の多彩さも魅力に挙げられます。世代や性別を超えて多くの人が楽しめる競技です。
陸上選手が目指す身体
・基本の動きには「ぶれない体幹」が必要不可欠
陸上競技には数多くの種目があり、種目によって競技特性も異なるため、求められる体つきや能力も変わってきます。しかし、走る、歩く、跳ぶ、投げる、といった動きはしっかりとした「軸」が必要な動きで、姿勢を正しくとるための筋肉や体幹は陸上選手にとって必須と言われています。例えばハンマー投げなどの投てき種目では回転の力で投げる動作を行うので、回転で生まれる力を正しく投げる力に伝えるためにも体幹を鍛え、軸を作ことが大切です。
陸上競技の中でも、中・長距離や跳躍種目などでは、ウエイトコントロールも必要になるものがあります。減量を行う場合は競技に必要な筋肉を削ってパフォーマンスを低下させないように、筋肉量を維持し、脂肪を減少させることに意識が必要です。ウエイトオーバーはケガの原因にもなりますが、減量が必要な場合は短期間で大幅に行うのではなく、長期的に少しずつ体重を減らすことで、身体の負担を減らすことができます。
求められる能力
短距離走
・スタートダッシュ時の「瞬発力」「パワー」
・スピードを維持する「筋持久力」
スタート時のダッシュが記録を左右するともいわれているぐらい、ここでトップスピードにどれだけ早く持って行けるかが重要です。また、200mや400mでも、スピードを維持するための筋持久力が必要になってきます。
中距離走
・走り続けるための「筋持久力」
・800m走の選手は身体のぶつかり合いに負けない「当たり強さ」
短距離走のように全力疾走はしないものの、安定したスピードで、最後まで走り続けるための「筋持久力」は長距離においても重要な能力です。また、800m走では、「格闘技」と表現されるほど、コーナー前やゴール前で身体のぶつかり合いが生じることがあり、その際によい位置につくためにも接触に負けない強さを身に着けることも大切です。
長距離走
・優れた「心肺機能」
・走り続けるための「筋持久力」
呼吸器や循環器の機能を高めて、全身の持久力を高める必要があります。また、中距離層と同様に、計算されたペース配分に沿って走り続ける筋持久力も大切な要素です。
跳躍種目
・跳躍4種目に共通するのは助走のスピードを跳躍に繋げる力
高さを競う棒高跳、走高跳、距離を競う走幅跳、三段跳があり、いずれも踏切が重要です。
高さを競う種目の場合は助走で得たスピードを跳躍力に変える力だけでなく、空中姿勢において、体の軸をしっかり作れるかも大切です。棒高跳びの場合は助走時のスピードに加え、ポールを扱うためのしっかりとした上半身の筋肉も必要となってきます。
投てき種目
・機銃動作によって得た力で遠くに投げる「最大筋力」 ・爆発的なパワーを発揮するための瞬発力
・最高の一投のための「集中力」
砲丸、円盤、ハンマー、槍といった様々な投てき物を遠くに投げ、その距離を競う競技です。投てき物そのものに重量があるので、扱えるだけの筋力が必要です。
また、基準動作は下半身の動きから連動して、投てきに繋げる重要な動作です。
試合では3回の投てきのチャンスがあり、最高の投てきを行うためにも基準動作を正しく行えるための集中力が必要です。試合時間が1~2時間と長時間に及ぶこともあるので、集中力を維持することも大切です。
陸上選手の身体を作る食事
・瞬発力・俊敏性に働きかける食事
・ウエイトコントロールが必要な場合も栄養バランスに注意する
・疲労やケガの回復を早め、持久力を養う
・屋外の種目は特に水分補給をしっかりと
様々な種目がある陸上競技ですが、瞬発力は共通している競技において必要な要素です。身体の機能を高めるためにも食事できちんと栄養を摂ることが大切です。
陸上選手に必要な栄養素
アスリート共通の食事のコツです。様々な食材から摂るようにしましょう。
瞬発力・俊敏性を養う
・カルシウム・マグネシウム
カルシウムには神経の伝達物質の働きを調節する働き、マグネシウムには情報伝達物質の量をコントロールする働きがあると言われています。いずれも神経の働きには欠かせない栄養素です。
カルシウムが多く含まれる食材・・牛乳、ヨーグルト、ひじき、魚、小松菜、青梗菜など
マグネシウムが多く含まれる食材・・アーモンド、大豆、干しエビ
・たんぱく質
瞬発力を高めるためには強い筋力が必要です。筋肉を構成するたんぱく質を十分に摂りましょう。
当たり負けしない強い身体を作るには
丈夫な筋肉をつけること、骨を強くして身体の基礎をしっかりと作ることが大切です。
・たんぱく質
筋肉だけでなく、骨や内臓、血液などの材料となるたんぱく質は、一度の試合でエネルギー消耗が激しいアスリートは不足がないように摂取する必要があります。
・ビタミンB6
たんぱく質を代謝させるのに必要な栄養素です。
食材・・鶏ささみ、マグロ、ピーマン、にんにく、バナナ
カルシウム
骨折を防ぐためには、骨の材料となるカルシウムも摂っておきたい栄養素です。牛乳やヨーグルト、チーズはカルシウムが吸収されやすい食品なので積極的に摂りましょう。魚類にも含まれています。酢やレモンといったクエン酸の含まれるものと一緒に摂ると吸収効率を良くすることに期待できます。
食材・・乳製品、魚類、小松菜、海藻類
ビタミンD
カルシウムと一緒に摂ることで、体内の吸収効率を良くする働きがあると言われています。
食材・・きのこ類、鮭、うなぎ
疲労を回復し、持久力を養うには
走り込みなど、普段の練習量も多い陸上選手は疲労回復にも気を付けなければなりません。常にベストな状態で臨むためにも、日頃から練習の疲労を翌日に持ち越さないように、しっかりと食事・休養を摂り、疲れに負けない身体を目指しましょう。
・糖質
試合の日など、固形のものを口に入れることが難しい場合は糖質の入ったスポーツドリンクで、水分と一緒に糖質を補いましょう。
・ビタミンB1
糖質をエネルギーに変えるときに必要になるビタミンです。リカバリーにも関わる重要な栄養素の一つです。不足すると食欲不振や倦怠感、疲労が抜けにくくなるので積極的に摂るように心がけましょう。
食材・・豚肉、うなぎ、アーモンド、焼きのり、タラコ、など
・クエン酸
エネルギー代謝の中心になる役割があると言われています。柑橘系の果物や食酢に含まれています。食酢の酸味が食欲の増進に繋がり、食の細くなる夏の時期には酢の物や南蛮漬けなど、酢を料理に使うことで夏バテ防止も期待できます。
・ビタミンC
皮膚やコラーゲンの合成に関与し、ケガの治りにも関わるビタミンです。また、抗ストレスにも必要な栄養素なので、試合の時などプレッシャーのかかるシーンがある陸上選手には是非積極的に摂ってもらいたい栄養素です。
食材・・柑橘類、じゃがいも、ブロッコリー、ゴーヤー、いちご、キウイフルーツ
長距離選手は特に貧血の対策が必要
鉄分は酸素を全身の細胞に届ける組織の原料で、不足すると低酸素状態となり、身体機能を低下させると言われています。激しい運動で汗をかくと、鉄分も汗と一緒に排出してしまいます。また、陸上選手の場合は足部が地面と衝突することでも鉄分が失われます。これは、足の裏には血管が集合しており、着地などの動作で衝撃を受けると赤血球が壊れやすくなるためです。
鉄分
レバーや食肉、牛乳などに含まれている鉄分はヘム鉄と呼ばれ、吸収の良い鉄分として分類されます。また、ほうれん草や小松菜、ひじきなどに含まれる植物性の食材に含まれる鉄分は「非ヘム鉄」で、ヘム鉄に比べると吸収力は下が下がります。そのため、効率よく鉄分を補給するためには、鉄分と相性の良い食材を一緒に摂ることが重要です。ビタミンCやたんぱく質と摂るようにすると、吸収されやすくなります。
ヘム鉄・・レバー、牛もも肉、しじみ、あさり、かつお、まぐろ、鮭、牛乳など
非ヘム鉄・・ほうれん草、小松菜、納豆、ひじき、小松菜、昆布、切り干し大根など
こまめに水分補給をし、脱水を防ぐ
おおよそ体重の2%の水分を失うと、試合中のパフォーマンスが低下すると言われています。汗をかくことによって体温を調節し、血液の循環を円滑に行っているため、身体の水分が足りなくなると、これらの動きに影響が出ます。また、汗によりやミネラルも流れるので、足のつりにも注意しておきたいところです。炎天下で競技が行われる場合は特に気を付けるようにし、水分補給の際にはスポーツドリンクも活用し、水分と一緒に失われたミネラル(カリウム・カルシウム・ナトリウム
)を補給しましょう。練習中はこまめに水分を補うなど、こまめに補給しましょう。
カリウム・カルシウム・ナトリウム
筋肉の収縮時にも必要なミネラルです。
まとめ
・どの種目も「体幹の強さ」「瞬発力」が必要
・長距離選手は特に貧血に注意する
・水分と一緒にビタミンやミネラルを摂り、脱水症状や脚のつりを防ぐ
オリンピック最古の競技で、人間が狩猟をおこなっていた原始時代からの基本的な動作(歩く、走る、跳ぶ、投げる)を競う陸上競技はすべてのスポーツの基本とも言われています。個人競技のプレッシャーなど、陸上選手は身体だけでなく、精神面の強さも求められます。大会でベストを尽くし、記録を残すためにも、食事はトレーニングの一環とも言えます。自分に必要な栄養素が食事やサプリメントで摂れているかにも着目してみましょう。